※役職・肩書きは開催当時のものです
日本再生:
これからの
日本企業の競争力
経営者の創造性が
日本企業の競争力の源泉
日本企業の競争力を考えるうえで、改めて問われているのは、「自社のコアコンピタンス(自社ならではの強み)が何か」だ。グローバル競争が激しさを増し、AIやデータ活用が経営の前提となるなかで、企業の優位性は単に従来の技術力や生産能力を堅持するだけでは維持できなくなっている。各社が長年培ってきた現場の知恵、顧客理解、商品を生み出す構想力、そして組織に蓄積された暗黙知を、どのように見極め、独自の視点から新たに捉え直し、進化させていくのか。そこに、これからの経営者の重要な役割がある。
経営者がまずなすべきことは、自社の強みを見極めることだ。しかし、強みは時代や市場に応じて進化させていく必要がある。経営者の役割は、自社の強みを固定的に守ることではない。旧来からの強みに固執するだけでは、やがて競争力は失われてしまう。経営者が自社の強みを新たな視点から捉え直し、独自の発展経路を創造することが必要である。
日本企業が自らの勝ち筋をつくるうえで鍵となるのが、「論理」「クラフト」「アート」のバランスだ。論理は、数値や事業計画などに裏打ちされた合理的判断であり、クラフトは、現場で積み重ねてきた技術や経験、身体化された知恵を指す。そこにアートが加わる。ここでいうアートとは、経営者の哲学や思想ともいえるものだ。自社の思想を共有し、次の時代に適した形へと変化させていくには、長期的な仕組みが欠かせない。
しかし近年のガバナンス改革では、社外取締役の人数やROE、PBRといった基準が一律的に語られてきた。企業の成長ステージに関わりなく同一基準が適用され、それに振り回されれば、日本企業が本来持つ強みを進化させる力が損なわれかねない。日本企業が競争力を再び高めていくためには、一律の基準で企業を縛るのではなく、企業の創造性を促すガバナンスが求められる。経営者が持つ創造性を十分に発揮するためにも、ガバナンスのあり方そのものを問い直す必要がある。
高家 正行
カインズ
社長CEO
佐藤 衛
スター精密
社長
阪本 道子
スタインウェイ・ジャパン
代表取締役
加藤 英彰
J-POWER/電源開発
社長
橋本 修
三井化学
会長
高原 豪久
ユニ・チャーム
社長
沼上 幹
早稲田大学ビジネス・
ファイナンス研究センター
研究院教授
尾崎 弘之
早稲田大学ビジネス・
ファイナンス研究センター
研究院教授
日本再生の鍵は人間力と
リーダー育成
「失われた30年」を経て、日本企業の強みは変化してきた。技術革新や産業構造の変化に直面するなか、企業は既存の強みを見直したり、新たな競争力を身につけたりする必要に迫られている。
AIは生産性を向上させる一方で画一化を招き、データを先に握った者が有利になる。しかし、個人や企業にはそれぞれ固有のデータが存在する。技術変化に対応した日本固有のデータ、匠の技、ハードウエアを組み合わせる戦略に勝ち筋がある。ただし、この優位性が永続するとは限らない。日本人が得意としてきた匠の技そのものがAIに置き換わる可能性もあるからだ。
将棋の世界では、すでに人間はAIに勝てないといわれている。しかし、AI同士の対戦で名勝負が数多く生まれたとしても、人は人同士の対戦に価値を見いだす。知的労働や肉体労働ではAIに勝てない時代が訪れるかもしれないが、人の感情に訴えるものには依然として価値がある。人間だからこそ共感を生み出せる。「推し活」などはその典型例だろう。
また、AIがさまざまなアイデアを生み出す時代であっても、選択し、決断し、覚悟を持ってやり抜くのは人間固有の能力だ。この「決める」という行為に魅力を感じる消費者は多い。情報は提供しつつも、最終判断を相手に委ねるサービス設計も有効だ。
さらに、日本らしさを積極的に打ち出す方法もある。米国型を模倣するのではなく、日本独自の魅力や情報、ガラパゴスと批判されてきた特性を逆手に取ることで、新たなビジネスモデルが生まれる可能性がある。市場規模が小さく大企業が参入しにくい分野や、高い技術を持つ中小企業にも強みがある。競合他社が「まねしたくない」「追随したくない」領域を見極め、そこに集中することが、長期的には持続可能な勝ち筋につながる。
日本再生を実現するには、AIを活用しながらビジョンを描き、実行を促すリーダー層の育成も重要だ。いかに人の心をつかむか。そうした魅力も備えたリーダーを若いうちから育てていく必要がある。そのための教育環境の整備も欠かせない。
島村 琢哉
AGC
特別フェロー
青野 慶久
サイボウズ
社長
嶋田 泰夫
阪急阪神ホールディングス
社長グループCEO
五十嵐 啓朗
ファイザー
社長
清明 祐子
マネックスグループ
社長CEO
淺羽 茂
早稲田大学ビジネススクール
教授
佐藤 克宏
早稲田大学ビジネススクール
教授
人的資本経営の実践
価値を創造する人材が
育つ環境づくり
人的資本経営を実践するうえで、まず問い直すべきは、「人的資本」という言葉が何を意味しているのか。本来、人的資本経営とは、人材を単なる費用ではなく、将来の価値創造を支える資本として捉える発想から生まれた。人材は財務諸表上の資産として計上されないが、企業の競争力や成長力を左右する重要な資本であることは間違いない。だからこそ、人的資本に関する情報の開示を通じて、企業がどのように人に投資しているかを可視化することが求められるようになった。
一方で、雇用の実態を見ると、別の視点も必要になる。米国型雇用では、専門人材を必要に応じて採用し、事業の変化に合わせて人材が移動していく。それに対して日本企業は、長期雇用を前提に人材を抱え、育て、配置してきた。その意味では、社員を将来の価値を生む存在として見てきたともいえる。
しかし現在、この前提は大きく変わりつつある。企業側には人材への継続的な投資が求められる一方、若い世代にはキャリア形成の責任は自分自身にあるという意識が広がっている。SNSを通じて同世代の働き方や待遇が見えやすくなり、評価の基準は上司だけでなく、横につながる仲間の活躍にも向けられている。組織観もよりフラットになり、仲間と議論し、試し、失敗し、改善していくプロセスが重視される。「優秀さ」の意味も、個人の成果から他者との協働へと広がりつつある。
この変化の中で人的資本経営を実践するには、若い世代だけでなく、リーダー層・管理職層への投資が欠かせない。異なる世代や異業種との対話を通じて中間層の視野を広げることが、その出発点となる。学び続け、組織の内外で価値を創造できる人材が育つ環境をつくること——それが人的資本経営の本質である。
漆 紫穂子
品川女子学院
理事長
小室 淑恵
ワーク・ライフバランス
社長
Anna Kreshchenko
Flora
代表取締役
菰田 正信
三井不動産
会長
河村 泰貴
吉野家ホールディングス
会長
杉浦 正和
早稲田大学ビジネススクール
教授
本田 桂子
早稲田大学ビジネススクール
教授
「個別処方箋型」の
人材育成に転換を
5年後の外部環境やビジネス戦略、ビジネスモデルを見据えたとき、それを支える人材や組織のあり方を見直す必要がある。人材ポートフォリオの戦略的転換を図りつつ、変化に対応できる動的な人材マネジメントを推進するとともに、多様性を生かした新しい人材による組織変革を実現していかなければならない。
AIをはじめとする急速な技術革新により、企業に求められる人材は変化した。既存のアプローチとは異なる組織づくり、例えばシニア、女性、外国人といった多様な人材の増加に対応するには、人事制度やキャリア形成、採用手法、組織運営の変革が必要だ。また、マネジメント職や専門職、ワーカーなどタイプ別の人事制度の構築も重要になる。
終身雇用や年功序列、労使関係といった日本的慣行も変化した。企業には個々のキャリアパスを考える責任がある一方、自律的なキャリア形成のためには、従業員側にも自立や覚悟、責任が求められる。
AI時代の到来を踏まえると将来に向けて必要な価値を提供し、真の顧客ファーストになる必要がある。そのためには、多様な「個」を活かす組織の実現に向けて、経営陣が覚悟をもって従業員ファーストを考えることが不可欠になる。従業員の幸せは顧客の幸せにつながる。人材育成やマネジメントは画一的ではなく、個々の考え方や働き方に合わせた「個別処方箋型」が鍵になるだろう。事業規模の縮小が結果として従業員満足度や生産性の向上につながった例もある。まずは現場を知り、現場の声を聞くことが重要だ。従業員を尊重することで現場に意欲と余力が生まれ、正の連鎖につながる。
今後、人事評価はさらに複雑になるため、業界横断型のスキルの見える化も必要になるだろう。伝統的な組織風土を持つ企業の変革には困難も伴うが、大胆な改革をどのタイミングで誰が進めるのかが重要になる。経営トップが強い意志を持ち、事業ポートフォリオが変わるタイミングで実行する方法もあるだろう。人材戦略の必要性を現場に浸透させることも求められる。
髙倉 千春
高倉&Company
共同代表
笹山 晋一
東京ガス
社長
轟 麻衣子
ポピンズ
社長グループCEO
菊地 唯夫
ロイヤルホールディングス
会長
玉塚 元一
ロッテホールディングス
社長CEO
堀江 徹
早稲田大学ビジネススクール
教授
内田 和成
早稲田大学
名誉教授(ファウンダー)
AIによる経営の
パラダイムシフト
人間特有の価値を生かす
経営へ
いま、生成AIの急速な進化によって、企業経営の前提が大きく揺らぎ始めている。文章作成や情報整理、データ分析にとどまらず、AIは経営判断のスピードを高め、組織の階層構造や人材の価値そのものを変えようとしている。人間として、企業として、AIを手段として活用しながら何を成し遂げたいのかが問われている。
今後、仕事の価値は大きく二極化していく。上流では、構想を描き、戦略を立て、創造的な判断を行う力がますます重要になる。下流では、現場でものをつくり、サービスを届け、身体性を伴う実務を担う人材の価値が高まる。価値のスマイルカーブはさらに深まっていく。問題は、その中間に位置してきたホワイトカラー層だ。情報を集め、整理し、伝達することを主な役割としてきた人材は、AIによって代替されやすくなる。企業にとっても社会にとっても、この層がどのように新たな価値を生み出す側へ移行できるかが大きな課題となる。
能力の定義も変わり始めている。重要なのは、新しいツールを恐れずに使いこなす好奇心、変化に応じて自らを更新できる適応力、複数の手段を組み合わせて成果につなげる柔軟性だ。これまで目立たなかった人材が、AIを使いこなすことで突然大きな成果を出す現象も、いま各企業で起こり始めている。
答えのある問いに短時間で正解する力だけでは、AI時代の社会を切り開くことはできない。人間に求められるのは、答えのない問いを考え続ける力であり、論理だけでは届かない直感や美意識、他者と合意を形成する力である。信頼、倫理、哲学といった人間特有の価値を育むことが、これからの教育の中心に置かれるべきだ。
AIは経営者にとってきわめて強力な道具である。しかし、道具である以上、それをどこへ向かって使うのかを決めるのは人間にほかならない。経営者には思想が求められる。これまでの延長線上にはない大胆な社会デザインと、それを実行する覚悟が問われている。
仲 暁子
ウォンテッドリー
CEO
小沼 大地
クロスフィールズ
代表理事
高岡 浩三
ケイアンドカンパニー
代表取締役
鮫島 光
テルモ
社長CEO
大松 敦
日建設計
社長
山口 明夫
日本アイ・ビー・エム
社長
岡崎 忠彦
ファミリア
社長
入山 章栄
早稲田大学ビジネススクール
教授
田中 愛治
早稲田大学
総長
菅野 寛
早稲田大学ビジネススクール
教授(コーディネーター)
AI時代の付加価値創造と
組織変革
AIの普及により、企業のマーケティング戦略は劇的に変化した。これからは数多くの商品からAIが機能価値で選択し、最終的に人間が情緒価値によって購買を決定する時代になるだろう。企業には、AIによる生産性向上を前提とした高付加価値化への取り組みが求められる。さらに、高めた付加価値をどう伝えるかも重要だ。戦略的に発信しなければAIに評価されなくなる。AIの利用率は個人・企業ともに米国と日本で大きな差があり、米国が先行している。AIを日常的にどれだけ活用しているかが企業競争力にも表れている。
マーケティングに限らず、AIによりデータのインプットとアウトプットの量は圧倒的に増える。そのなかで、経営から現場まで「何を解決すべきか」という問いを立てる力こそが競争力の源泉となる。AIをマネージメントする人材の育成は大きな課題であり、AIの存在を前提としたトレーニングプロセスを考えていくことも一案だ。例えば、人材育成や人事評価システムの見直しにも応用できる。AIを活用しながら20代の経験値を飛躍的に高める育成プログラムの導入など、組織的に経験値を引き上げる取り組みも重要になるだろう。
一方、倫理面では最低限、企業ごとのAI稟議のガイダンスを整備する必要がある。著作権や守秘義務への配慮も欠かせない。ただし、国がルールを厳しくし過ぎればスピードは落ちてしまう。社会的なコンセンサスがなければ難しい面もあるが、冒険を許容する文化の醸成も重要だろう。医療など人の命に関わる分野では一定のルールが必要だが、地方交通や農業などでは規制緩和を進めながらAIを活用する選択肢もある。
経営トップにはITリテラシーを身に付け、どこでAIを活用することが経営の効率化につながるのかを考える力が求められる。日本は今の体制のままでは国力の低下が避けられない。日本の強みであるものづくりを強化する規制緩和や競争政策を推進し、そこにAIを活用していくことが鍵になる。
天沼 聰
エアークローゼット
社長CEO
高岡 本州
エアウィーヴ
会長兼社長
佐々木 裕
NTTデータグループ
社長CEO
マニヤン 麻里子
TPO
代表取締役
数原 滋彦
三菱鉛筆
社長
伊達 美和子
森トラスト
社長
長谷川 博和
早稲田大学ビジネススクール
教授
株式市場に向き合う
上場企業経営
市場との対話を
企業価値創造の力に
ここ10年、日本のコーポレートガバナンス改革は着実に進展し、海外投資家にも評価されている。ただ、その改革も、登山に例えれば、現在はまだ「1.5合目」に過ぎない。制度や形式の整備は進んだものの、それを成長と企業価値創造に結びつける実践は、なお道半ばである。
ガバナンスは、企業価値創造のための重要な基盤であるが、企業を成長させるのは、CEOの能力とリーダーシップだ。リスクを取らないリスクを認識し、成長に向けた資本配分に踏み出せるか。そこに経営者の真価が表れる。
近年、物言う株主(アクティビスト)の活動は活発になっているが、アクティビストをむやみに恐れる必要はない。企業価値と株価を高めることこそが、アクティビストへの最も本質的な対応であり、また、同意なき買収を避けるための根本的な解決策でもある。会社内の変化を嫌う抵抗勢力を抑えるために、アクティビストの提案や投資家の意見を活用するのも、CEOの腕の見せ所だ。
一方で、上場企業の経営者は、自社の戦略に共感する株主を開拓する努力も怠るべきではない。CEOが自ら投資家に戦略ストーリーを説明し、それに賛同してくれる長期投資家を育てていくことが肝要である。投資家と経営者は、本来、企業価値向上をともに目指すパートナーであるべきだ。短期志向の投資家は、短期志向の経営をもたらし、長期的な成長が阻害される。だから、種類株制度の活用や長期投資の優遇税制など、「長期投資家を育てる仕組みづくり」は国全体で考えるべきテーマである。
投資家とのエンゲージメントから逃れるために非上場化を選択する企業も出てきている。しかし、非上場化はすべての企業にとっての解決策ではない。むしろ上場企業である以上、市場との対話から逃げるのではなく、外部からの規律を受け入れ、それを成長の力へと転換していくことこそ、優れた上場会社経営の本質といえる。
新芝 宏之
岡三証券グループ
社長
井上 和幸
清水建設
会長
岩倉 正和
TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
菅野 暁
東京大学
理事(CFO)
山道 裕己
日本取引所グループ
グループCEO
高倉 透
三井住友トラストグループ
会長
漆間 啓
三菱電機
社長CEO
長尾 裕
ヤマトホールディングス
会長
伊藤 友則
早稲田大学ビジネス・
ファイナンス研究センター
研究院教授
根本 直子
早稲田大学ビジネススクール
教授
株式市場の転換期に
問われる経営姿勢
2023年3月の東京証券取引所による資本効率改善要請以降、上場・ベンチャー企業双方に構造変化が生じており、ベンチャーキャピタルの投資手法にも変化が起きている。各企業は株主還元や自社株買いを積極的に進め、本格的な国際化も進んでいる。非上場化を選ぶ企業も現れるなど、環境変化への対応策の選択肢は広がっている。
物言う株主(アクティビスト)は保有不動産が市場価格に見合った形で活用されているかを厳しく見ており、売却方針を明確に打ち出すことが重要なポイントとなる。長期目線の機関投資家や個人株主との関係を積み上げることが、株式の安定につながる。企業方針を理解したうえで株を保有してほしいという思いはあるが、投資家が短期の利益を求めて動くのか、企業の中長期的成長を見据えて動くのかによって関係性は変わってくる。正しい経営を貫き、隙を見せなければ、アクティビストを過度に恐れる必要はない。
配当額が人件費に比べて、増加率が相対的に高すぎるのではないかという指摘もある。一方で、事業投資は意思決定のハードルが高く、建設コストの上昇や人材確保のためのオフィス環境整備など課題も多い。それでも企業が成長に舵を切ろうとする方向性は見えている。M&Aでは価格を最優先する相手とは組まず、従業員の幸せや企業価値向上を共に目指す共創の姿勢が成功の鍵になる。知見のある分野でM&Aを行うことも重要だ。地方銀行の経営統合が増えているように、日本企業全体でも新陳代謝が求められており、日本のベンチャー上場市場のてこ入れとサポート充実は急務となる。デフレ脱却が進む中、株主還元から成長投資へのシフトが今後さらに進む可能性もある。議決権行使助言会社のガバナンス改善も重要な課題である。
大見 秀人
あおぞら銀行
社長
鎌田 正彦
SBSホールディングス
代表取締役
江原 信
カルビー
社長CEO
遠藤 俊英
ソニーフィナンシャルグループ
社長 CEO
杉江 俊彦
三越伊勢丹
会長
中島 篤
三菱地所
社長
出雲 充
ユーグレナ
社長
樋原 伸彦
早稲田大学ビジネススクール
准教授
新規事業創出の
チャレンジ
新規事業創出は
選択肢ではなく必然
企業が持続的に成長していくためには、既存事業に依存し続けるのではなく、事業ポートフォリオをシフトさせ、新たな事業領域へ展開していくことが求められる。AIを含むテクノロジーの進化によって既存事業の賞味期限が短くなるなか、新規事業創出は選択肢ではなく必然となっている。
ただし、新規事業とはゼロから立ち上げるものだけではない。既存の技術や資産の用途を転換し、新たな市場や顧客へ展開することも重要な新規事業である。しかし現状では、新規事業開発の戦略的意図が曖昧なまま、目的が見えにくくなっているケースも少なくない。まずは「自社にとって重要な新規事業とは何か」を明確に定義することが出発点となる。
大企業は大企業らしい新規事業創出に集中すべきだ。自社のアセットや顧客基盤、技術、人材、ブランドが生きる領域はどこか。自社に足りない能力や機能は何か。守るべきものや超えられない制約は何か。実装まで含めて何ができるのかを直視する必要がある。足りない部分を補ううえでは、スタートアップやベンチャーとの協業も有力な選択肢になる。
意味のある新規事業を生み出すには、経営者自身の起業家精神も欠かせない。すべての責任を負う経験を持つ人材がトップを担うことで、イノベーションを生み出すマネジメントが可能になる。
生成AIが事業アイデアの創出や審査まで担う時代には、ビジネスプランはより現実的になる一方で、小粒化し、似通ったものになりやすい。差別化の鍵を握るのは、自社ならではの強みと、事業を本気でやり切る人間の力である。
新規事業創出の鍵は、自社にとっての意味を明確にし、成長機会を見極めることだ。そして、実装まで責任を持ってやり切るチームをつくれるかどうかが問われている。
春田 真
エクサウィザーズ
代表取締役
藤沢 久美
国際社会経済研究所
理事長
池内 省五
JICキャピタル
社長CEO
宮坂 貴大
BONX
CEO
大越 博雄
マブチモーター
会長
大坪 正人
由紀ホールディングス
社長
杉田 浩章
早稲田大学ビジネススクール
教授
三品 和広
早稲田大学ビジネス・
ファイナンス研究センター
研究院教授
新規事業挑戦は
企業成長の源泉
企業の成長には新規事業が必要だと考える経営者は多い。事業のほぼすべてが新規事業に該当するベンチャー企業にとっては必然だが、伝統的なものづくりを本業とする大企業であれば、M&Aによって新たな事業を獲得する選択肢もある。新規事業の定義やアプローチは業種や規模、企業の歴史によって異なるが、成長の基本であり、その源泉でもある。
新規事業は人材育成や組織への刺激にもつながる。挑戦すること自体に意義があり、言い出した個人の情熱がなければ前に進まない。その多くは思うような成果につながらないかもしれないが、修羅場や苦しさ、悔しさが次の挑戦のエネルギーになる。人は小さなプロジェクトでも成功体験を積むことで大きく変わり、自走型の人材へと成長していく。ミスが許されない企業文化が根強く残る組織では、文化を変える目的で社内ベンチャー制度を設ける方法もあるだろう。
経営トップには、従業員に新規事業へ挑戦する機会を与え、ある程度自由に任せる度量も求められる。失敗を容認するということではなく、チャレンジを奨励することが鍵になる。また、個人だけでなく組織やリーダー、企業全体のリスク許容量を理解することも重要だ。
一方で、撤退の意思決定は経営トップが担わなければならない。撤退の基準やタイミングは時代によって変化するが、進むこと以上に止める決断こそが経営者の最も重い役割である。大企業の場合は成功確率を高める必要があるため、知見のある分野で新規事業を進める方法も有効だ。上場企業の中には投資家への説明に苦労しているケースも見られるが、新規事業は短期収益だけで評価できるものではない。新規事業に挑む従業員をどう評価するかも、今後の課題となる。
森澤 篤
アリナミン製薬
社長CEO
井上 慎一
ANAホールディングス
特別顧問
柴田 久
しずおかフィナンシャル
グループ
社長
徳重 徹
Terra Drone
社長
小池 利和
ブラザー工業
会長
田村 咲耶
MonotaRO
社長
池上 重輔
早稲田大学ビジネススクール
教授
川上 智子
早稲田大学ビジネススクール
教授